2010年12月9日木曜日

グレイキャット物語 Vol.2



                                                Pinturra en la Calle



さて、宣言をしたまでは良かったが、私の計画は早くも暗礁に乗り上げてしまった。

まず第一に、どうやって彼を捕まえるか?

グレイキャットは、猫1.5匹分は優にある大猫である。
また、彼のその凶悪犯並みの目付きや、夜中に、この通り一体を震撼させるほどの大きな喧嘩声を聞けば、彼がどれだけ凶暴な猫か、想像するのは難くない。

家に侵入した時に、猫用の入り口を塞ごうとしたこともある。
奥の部屋まで追いつめたこともある。

それでも最後の決めまでいけないのは、その迫力にある。
彼とて、ざらに野良として生き延びてきたのではないのだ。
その過酷さ、シビアさは、我々の想像の範疇を軽く超えるだろう。
そして、そんな野生のサバイバルキャットを相手に、ぬくぬくと暮らしている我々が、太刀打ち出来るかというと、そう簡単ではないのだ。

だから相手が例え猫であれ、一騎打ちになった時、最後に怯んでしまうのはいつもこちらだ。
悔しいがこれは認めざるを得ない事実である。

しかし、こちとら知恵を持って生まれた人間だ。
相棒に話しをした結果、この界隈では動物愛好家として有名なDが、罠を持っているかもしれないから、君に直接連絡するように言ってみようということになった。

そして待つこと1週間。
なんの音沙汰もなければ、相棒さえも撮影に出掛けてしまって、連絡がつかない。

メッセージやメールを送って、じりじりすること更に3日。

やっと電話口に出た彼に、”ちょっとぉ、何の連絡もないんだけど、ちゃんと連絡してくれたの?”というと、”え、そう?おかしいなぁ。じゃぁ、もう一度連絡してみよう。”と宣う。

そう、時として、ここ、メキシコに住む人間は、猫以上に厄介なのである。(メキシコ人ではなく、メキシコに住む人、です。念のため)

それから待つこと更に3日。
連絡未だ来ず。

この辺から、私の機嫌は急下降してくる。

だいたい、DもDだ。

自分が必要な時は連絡してきて、やれ、動物愛護団体のキャンペーンがあるから、写真を撮ってくれだの、地元の自然を守ろうキャンペーンがあるから、出席してだのと言っておきながら、こちらが頼み事をした時は、まるで雲隠れしてしまったかのように何も言って寄越さない。

そうかと思えば、ひょっこりとうちのスタジオ兼倉庫に現れて、撮影の準備に追われて緊迫している最中、世間話を始めるのだ。それも一方的に。
そして一旦喋り始めると30分は絶対に止まらないし、誰も彼女を止める事はできない。

だが、相棒も相棒だ。か弱い(?)私を準備に借り出しておきながら、彼女が来ると、一緒になっていつまでもぺちゃくちゃ喋っている。そして、もう間に合わないだの、やれ、忙しいから君代わりに行って、写真撮る練習したら?動物好きだろう?などと、人に面倒な事を押し付けておきながら、いざと言う時には、罠一つ借りれず、忙しいからまた今度とも断れず、大猫狩りに立ち会う時間もなく、いつも、”あと少しのところだった”などと言い訳ばかり言っている。

自分の感情や都合に任せて、ペラペラと喋ってばかりで、全く実践的ではない彼らの頭の中がどうなっているのか、私はさっぱり検討が付かないが、非難すればしたで、またレイシスト(人種差別)呼ばわりされるのは目に見えているので、ここはぐっと堪えることにする。

そして、もうこうなったら人に頼るのは一切辞めて、自分でやろうと、動物愛護団体に電話をしてみる。

”あー、あー、すみません、こんにちは。あの、猫のえーっとTrap・・あれ?Trapはスペイン語で何だったっけ。すみません、英語喋れますかぁ?”

”はい、喋れますけど何か?”

”おぉぉぉ〜。良かった!私、Kyokoと言いますけど、近所の野良猫がうちにきて悪さばかりするので捕まえたいのですが、仕掛け用の罠、もしあったら、お借りできませんか?”

何のことはない、文句を言いつつも、相棒に用事を言いつけるのは、実はスペイン語を喋るのが億劫なのである。

さて、その動物愛護団体長によれば、一番良い方法は、その猫を捕まえて、避妊手術を受けさせること。(この団体まで持って行けば、無料でやってくれるらしい。)手術を受けさせた後は、必ず家の近くで解放すること。(遠くまで連れて行っても、猫の習性で、必ずもとの場所まで戻ってくるらしい。)離した猫は食べ物を求めて戻ってくることもあるけれど、手術から1ヶ月程度でマーキング行為はしなくなるので、餌などあげて見逃してやることが望ましい、等々。

当初の相棒の提案は、彼を捕まえて、どこか遠くに連れて行ってしまうか、あるいは獣医で安楽死させることだった。

まぁ、殺してしまうというのは、いくら何でも行き過ぎだし(だいたい、彼とて口でそう言っているだけで、そんな勇気は微塵もないのは、始めからわかっている。)、さりとて手術後間もない猫を、全く知らない場所に放置するというのも気が引ける。

しかし、近くで離して、逆襲されたり、また戻ってきて1ヶ月間放尿(失礼!)し続けられるのはもう正直コリゴリなのだ。

ただでなくとも、最近は、家猫にさえ煩くされて疲労気味だというのに、これ以上、何をどうしろと言うのだ。

しかしそんなことばかりも言っていられないので、とにかくは罠を借りに行き、仕掛けてみることにする。



”え〜っと、檻の中に、ツナを入れるって言ってたな。”




まずは、深夜の台所のカウンターで、ツナ缶を”パカッ”と開ける。

すると、その音を聞きつけて、どこからともなく、家中の猫が飛んできて、分けてくれコールを開始する。

何しろ、食いしん坊で欲張りなのだ、猫という生き物は。

そこで、まず最初に彼らに分け前を与え、食べ終わったのを見計らって、いつも通り外に出し、ほんの微量を檻に入れて、部屋の隅に置き、枕を高くして寝床に着く。

う〜ん、明日の朝には私は勝利の笑顔を浮かべていることでしょう・・・



と、どれくらい、ウトウトと眠り掛けたことだろう?突然、”ガシャーン”と大きく音がして、私はベッドから飛び起きた。




掛かった〜!!!!!!!!!!!!




暗闇の中、大急ぎで近寄ると、檻の中から小さく、”ミャォオ〜”と声がする。

見るとそこには、夜のパトロール(徘徊)を終えて帰宅したミャオ子が掛かっているではないか。


”ミャオちゃん!なんで余計なことするの、もぉ〜!!”


果たして、ツナの匂いに釣られたミャオ子は、さっき、あれほど指導したにも拘らず、私の姿が見えないことを良いことに檻に忍び込んだのだ。

そしてその後、入れ替わり立ち代わり忍び込んでは引っ掛かる、他ならぬ家猫のお陰で、私は何度起きだして、彼らを出してやらねばいけなかっただろう?

結局殆ど寝れぬまま、再び朝がやってきた。



(続く)





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4 件のコメント:

  1. ちょっと面白いよ、みゃお子。
    でも、猫用の罠を仕掛けるのなら、
    家猫をどこか一箇所に閉じ込めてからでないと、
    皆んな次々に罠にかかって、
    トラウマになっちゃうんじゃない?
    猫の記憶はしつこいからねぇ。
    願わくば、早くその大ボスを捕えることができますように!

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  2. もう、みゃおちゃん、相変わらずでしょう?食い意地に掛けては、他の猫には負けません。

    ちなみに、猫を一部屋に閉じ込める作戦も行いました。

    しかし・・お陰でこちらは一睡もできませんでした。

    そう、中から、”出してくれ〜!”といって、猫が鳴き声を上げるのがうるさいのなんのって、あ、ところで、sasaさん、猫要らない??5匹くらい。
    熨斗付けて速攻で送るけど〜!;D

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  3. 猫は間に合ってます~(笑)
    実は、今のシェアハウスの大家の
    奥さんの猫(元家猫)が外猫になっていて
    気が向いたときにふら~っと来るのよ。
    で、『腹減った』って鳴くんで、
    大家のキャットフードあげるんだけど、
    同じく大家の飼ってるアヒルがこの猫を追っ払い、
    キャットフードを横取り・・・。
    そしてこのアヒルを野生の七面鳥が追い回す…(汗)
    とんだ動物館よ~。

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  4. うーん、ハワイ島もえらいことになってますね。
    いやはや、しかし人間と動物の共存・・素晴らしいことです。

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