2010年12月8日水曜日

グレイキャット物語

                                                 La Iglesia (Tulum)



グレイキャットとは、うちの家によく忍び込む、この界隈のドンである。


私がメキシコに引っ越すよりずっと前、7年前に相棒がこの家に移る、更に前から、
この辺りをテリトリーとして住んでいる、泣く子も黙る大猫の姿ここにあり。

片耳は潰れ、尻尾はその大きな体とは不釣り合いに極端に短くて、先が妙な具合に曲がっており、目つきは凶悪犯そのもの。

野良猫というのであれば、うちの猫達も、皆、ノラ出身なのだ。だから、餌を貰える身分になった今でも、チビ猫を除いては、未だに外を徘徊して回る癖は抜けてない。

ミャオ子などに至っては、その辺のゴミを漁ったり、角っこのお店に忍び込んで、おばさんが作る、タコス用の肉を狙っているところを、ばったり私に見つけられ、ちょっとバツの悪そうな顔をすることはあれども、大抵は、私を見るといつも嬉しそうに走って声を上げる。だから私に取っては天使のように可愛いのだ。

ところが、グレイキャットに至っては、そんな可愛さの欠片は微塵たりとも見られない。

こちらを見る目は、世のすべてを憎むかのように鈍く光っている。
そして、こちらを完全に馬鹿にしきったかのような態度で、ちょっとやそっと石を投げようが、全くおかまいなしで、手の届きそうなくらいの隣の屋上で寛いでいたりする。

更には、人様が外出したり、寝ている隙を見計らってはうちに入り込み、不在の愛猫に代わって、
台所に置いてある餌をすべて食べ尽くし、マーキングまでしていくという汚らわしさ。人を馬鹿にするにも程があるというものだ。



実はその昔、この家を巡って、相棒とグレイキャットの間にはテリトリー争いがあった(らしい)。

グレイキャットが住んでいた廃墟同様の空間に、相棒が突如現れて、いきなり彼を追い出してしまっただけでなく、窓を付け、台所やシャワーを備え付け、ペンキを塗り、自分の城にして居着いてしまったのだ。

それが、彼の目にどう写ったかはわからない。ただその後、可愛がっていた子猫を殺された、ということは相棒から聞いた。

その真偽は定かではない。ただ、普段は動物好きな彼が、彼に見せる執念たるや、相当なものがあったので、いつの日からか、私も同じように彼を嫌うようになったのだ。

しかしメキシコに来て3年、ついぞ我々は、彼を捕まえることができなかった。
もう少しのところで、ということは度々あったし、相棒の、”頭のすれすれのところに石を投げた。”というのも何度も聞いた。

しばらく姿を眩ませて、「もう死んじゃったんじゃない?」なんて話していると、その翌週には、またうちのゴミを荒らしたり、猫よけに張ったネットが、ミニハリケーン襲来で緩んで以来、再び家の中に忍び込むようになり、そうでない夜は、通りでうちの猫と大喧嘩をした。

そして、家に忍び込む回数が増え、食料品を含む、私の大事なものにマーキングがされ、言葉を失うことが続いたある日、私はついに立ち上がった。

”あの猫を捕まえて、もう二度とここに来れないようにする!”


(続く)





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