2012年10月8日月曜日

進化 vs 人間力




                                                                 Los Gatos chiquita





私は旧化石時代の人間なので、昨今の地球の進化ぶりにはついていけない、と感じることがしばしばある。



別に、メキシコが好きでたまらなくて住んでいる訳ではないけれど、このアナログさには、ちょっとした心地良さを覚えるし、彼らの土臭さに、郷愁を覚えることもある。



そして、今ではこの生活に馴染み、これを基準として過ごしている訳なので、ここから別の、進化発展ゾーンに足を踏み入れるや否や、驚くべきことがたくさんある。





この夏の帰国に際し、L.A経由で飛んだ。
一気に帰るよりも、その方が、割安だからだ。


まずは、空港に行って、チェックインの列に並ぶ。

事前に、自宅で作業は済ませていたので、荷物を預けるだけのはずだけなのが、すでに災難は、ここから始まっていた。




”パスポートを見せて下さい。”
”はい、どうぞ。”

”アメリカのビザはどこですか?”
”は?”

”アメリカのビザを持ってますか?”
”いえ、ありません。”


”ビザ、ないんですか?”
”あ、私は日本人なので、ビザは要りません。”





アメリカに入国する場合、3ヶ月以内であれば、日本人はビザは不要であり、ESTAという、ビザ免除プログラムの手続きを済ませていれば、自由に出入りできる仕組みになっている。


しかし、私の言っている意味がわからないのか、コンピューターのところに戻り、こそこそと、画面を覗き込む係員2名。


仕方なく、待つ事5分。



再び戻ってきた係員。


”あの、ビザがないと、アメリカには入れません。”

だから、日本人は、要らないんだってば!


朝から何も食べてなくて、不機嫌な私は、責任者を呼び、説明する。


”あのね、日本人は、3ヶ月以内は、ビザは要りません。そういう国同士の協定なんです。”

”はぁ・・”


”ESTAには、登録済みだし、これで、今までも何度もアメリカには入国してるから、問題ありません。”




分かったかような分からないような顔をして、その責任者と名乗るローカル男性は、引き下がる。


要は、メキシコ人が、アメリカ経由で旅行をする場合、ビザは必須アイテムなのだ。


なので、もしかすると「そういうもの」として、彼らの頭にインプットされていたのだろう・・と思うことにする。



しかし受難は続いた。



”それではここに、アメリカの滞在先を書いて下さい。”

友人宅の住所を、フォームに書き込んで、差し出すと、その係員は、フォームと画面を交互に見ながら、真顔でこう尋ねた。




”L.Aは、どこの州ですか?”
”え?”

”L.Aは、どこの州ですか?”
”え?”


”L.Aは、どこの州ですか?”
”カリフォルニア州だけど・・”




何かの、悪いジョークか、どっきりカメラかと思えるような質問内容だが、本人は、至って大真面目に聞き、神妙な顔をして、画面に入力している。


ここまでくると、もう会話は不毛の領域であり、逃げるが勝ちだ。



もしかすると、彼女の頭の中では、L.Aとロスアンジェルスと結びつかなかったのかもしれないし、ただ単に、地理音痴な、新人なのかもしれない。


しかし、空港で働くにしては、ちょっと、地理感がなさすぎないか・・?!


あれこれ考えていたら、頭が痛くなってきたので、荷物を置いた後は、即座にカウンターを後にする。


その後は、お決まりのコースである。



長い列に並んで靴を脱ぎ、色々なものを、出したりしまったり、脱いだり、履いたりし、やっとターミナルに出た時には、心からほっとして、よし、じゃ、食事でも、と気分を変えたところで、はっとする。



そうだ、クレジットカード会社へ連絡するのを忘れてた!



日本のカードが、どうなっているのかは分からないが、今、私の持っているメキシコ産のクレジットカードは、海外では使用できないことになっている。


建前上は、盗難防止ということになってはいるが、海外に持ち出す時は、必ずカード会社に電話連絡をするようになっていて、しかし、この連絡というのが、実に曲者なのである。



なぜならば、カードの裏面に記載された番号は、コールセンターであり、担当部署に行き着くまでには、何度も番号を押し、途中で電話を転送され、時には切られ、また始めからやり直し、要は、時間が掛かること、この上ないのである。



結局、海外でカードを使えるように処理してくれ、という連絡一つに、時間を要すること、約30分。



お昼ご飯にありつく間もなく、ギリギリセーフで、飛行機に乗り込む羽目となる。
はぁ〜、疲れた!





さて、それから数時間後、気分も新たにL.Aに降り立ち、迎えにきてくれた友人宅にお邪魔する。


久しぶりの再会に話に花を咲かせつつ、私は彼女の「何か」が違うと感じているのだが、
それが何だかわからないまま、しばらく話したところで、やっと気がついた。



”ね、なんか、歯が白くない?”




そう、彼女の歯は、前よりも一層白く輝いていて、それが、印象を全く違うものに変えていたのであった。


聞けば昨今では、自宅で簡単にブリーチが出来る代物があるらしく、それも、漂白ではなく、なんとかという体に害のないものらしい。


”もし良かったら、オーダーしてあげるわよ。”


彼女の歯をまじまじと眺めつつ、また、自分の歯が真っ白になって、笑顔美人になったところを想像してみつつ、値段を聞いて、私は貝になる。


そのお値段たるや、私の、半月分の給料に近い金額だったのだ。




そうするうちに、話題は美容となった。

というのも、その彼女、押しも押されぬ、L.Aはハリウッドの人気ヘアメイクアーティストなのである。


彼女曰く、最近では、マニキュアではなく、爪を傷つけなくて済む、ジェルネイルというものや、まつげが伸びる薬まであるそうで、確かによくよく見れば、彼女のそれは、長い。それも、ちょっと尋常じゃない長さである。


元々魅力的な顔立ちで、昔から、まつげが長かったことは記憶しているが、明らかに3割増しで伸びている。


横から眺めてみれば、それは、宙に向かって緩やかにカーブを描き、まるで少女漫画、そのものである。




そういえば・・以前働いていたホテルに、浜崎あゆみそっくりの、モテモテメキシコ人スタッフがいて、その彼女のまつげが、信じられないくらいに長かったっけ?



絶対つけまつげにしか見えない、その目元に、ちょっと物憂げなその表情。

彼女の回りには、いつも男達が群がっていた。



いつだったか、そんな彼女がたまたま居合わせた時、私は、ここぞとばかりに、にじり寄っていって質問をした。





”ね、それって、つけまつげしてんの?”

”いいえ、自分のまつげよ。”

”まじでっ?!”

”えぇ、そうよ。”




少し勝ち誇ったような彼女の表情に、あの時は、私もすごすごと、引下がるしかなかったけど、今、真実は明るみに出た!


彼女もそのなんとか薬を、愛用したに違いない。




合点がいったことに、一人膝を打ち、友人に値段を聞くと、こちらは100ドルという。




貧乏人の私には勇気のいる金額だが、目元がぱっちりと、美しい目元に変身した自分を想像した私は、勢い良く財布から、虎の子100ドル紙幣を取り出して、バンと彼女の前に差し出した。



よーし、これで運気は急上昇!これからの人生に憂いなし!!



興奮覚めやらぬまま、彼女の手持ちの薬で、早速試し塗りをしてもらった後は、二人で
買い物へと繰り出した。





(続く)








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