L.A, California |
彼女が遠征中のオーストラリアにて、一緒に合宿生活をしながら、スクールを受けるというものだった。
そもそも、体育会系とはそれまで全く無縁だった自分が、どうしてこういう合宿に参加しようと思ったのか?
それは、先にも後にも、サーフィンがうまくなりたかったこと、久しぶりに日本人だけに囲まれて生活してみたかったこと、それに偶然が重なったこと。
この偶然に関しては、また後で書きたいと思う。
何しろ、飛行機を乗り継いで辿り着いた先は、クーランガッタビーチを見下ろせる、高層コンドミニアムの一室だった。
他の合宿生は、日本から翌日到着予定だったが、私は他国からの飛び入り参加ということで、他の合宿生よりも一足早く、現地入りしたのだ。
合宿生のお世話をしてくれるアシスタントのお二人に、まずはご挨拶をし、その後、師匠となる先生にご挨拶しようと、バルコニーに出るなり、声を上げてしまった。
幾重にも重なるセットの波が、岸に向かって割れているではないか。
これまでに、サーフィン雑誌で、そんな光景を見たことはあった。
いつか、こんな波に乗れたらいいなと切り抜いて、部屋の壁に飾ってもいたし、サーフィンのメッカと言われるバリのウルワツで、同じような光景を眺めたこともあった。
しかし、目の前の波は、それまでに見たどの光景とも異なっていた。
まず水の色。
それは青というよりも、緑の掛かった青で、それが乾いたオーストラリアの、突き抜けるように青く高い空に良く映えた。
それからビーチ。
さすがに大国オーストラリアだけあって、なだらかなカーブを描きながら、それはどこまでも横向きに広がっており、ところどころに、鎮守の森のような緑が見えるのが、どこか日本的だった。
最初に町中を通った時、どこかワイキキ的な雰囲気に、一瞬引いたのだが、この光景を見れば、どうしてここが、サーファーズパラダイスと名付けられたのかがよくわかる。
この光景の素晴らしさをパラダイスと言わずして、なんと呼べよう!
挨拶をするのも忘れて歓声を上げていると、早速夕方入りにいくから、準備するようにとお師匠さん。
さすがはプロだけあって、その容姿は精悍で、口数も少ない。
正真正銘の体育会系の方である。
一方、久しぶりに素敵な日本人女性に出会えて、テンションの上がった私は、せっかく体育会系の雰囲気を保とうと頑張っているにも拘らず、アシスタントの2人に向かい、一方的に喋りまくった。そして、ウキウキと準備もそこそこに、早速仲良くなったアシスタントのえりかちゃんと二人して、転がるようにビーチに踊り出た。
が、今度は私が無言になる番だった。
高層階からは、綺麗に見えたセットの波が、地上に降りて、目の当たりにしてみれば、ビルの2階は軽く超えるであろう大波なのである。
それも今までに見た事もないような、海底に叩き付けるようなパワー、そしてその波を廻り、壮絶な波取り争いが繰り広げられている。
一足先に入った師匠とアシスタントのよっちゃんは、その、地元のサーファーを間をすり抜けるようにスイスイと波に乗っている。
完全にフリーズした私を横目に、えりかちゃんさえ、”じゃ、Kyokoちゃん、あとであの丘の上でね!”と言い残し、凄い勢いのパドルで、アウトに向かって消えていった。
そう、真面目なよっちゃんに比べれば、おしゃべりで軟派なえりかちゃんも、一旦海に入れば、海の女。それもそのはず、彼女も、一時はオリンピックを目指した水泳の選手だったのである。
取り残された私は、呆然とそのその光景を眺め、しばらくして我を取り戻した後、すごすごと浅瀬の方に向かい、一番端っこの、いかにも初心者らしき連中が集まる一角に、陣取ってはみたものの、もちろんその日は、一本の波も取ることができなかった。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿