2012年8月27日月曜日

立場違えば・・

                      Familia del pato



夕方、友達との待ち合わせまで時間があったので、普段は入ることのない、高級デパートで時間を潰すことにした。


あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロしていると、突然背後から、”マダム”と声がして、振り向くと、そこにはトレーを持ったメキシコ人が、満面に笑顔を浮かべながら、 ”マルガリータをいかがですか?”とかしずいている。


”えっ、いいの!?” 

と思わず反射的に声を上げる私。

”もちろんです。はい。どうぞ。”

わーぉ、気分はもう、すっかり有閑マダムである。



恐らく、週末のこの時間帯に買い物をする、お金持ちマダムをターゲットにしたサービスだと思われるが、それもそのはず、このデパート、高級ブランドばかりを取り揃えた、その筋の、数少ない御用達店なのである。


どう転んだって、金持ちには見えない私だが、最後の一杯だったところを見ると、余ったので、お情けでくれたものだと思われる。



しかし普段、人に施しをすることはあっても、見返りを受けることなど、殆ど皆無な日常にあって、これは、私のテンションをかなり高くした。


というのも、私の住むアパートは、貧民地区にある関係で、人に声を掛けられる時は、たいてい厄介事が飛んでくる時なのだ。


通りを歩いていて、呼び止められたかと思うと、やれ、この計算機を買ってくれだの(どうして、それが計算機なのかよくわからない)、どこそこにお金を寄付してくれだの、あなたは神を信じているかだの、ネットワークビジネスの商品を買ってくれないかだの、うるさいこと甚だしい。


うちは、回りが集合住宅の長屋であるのに対し、3階建ての奥まった作りにあるので、他に比べれば、外の雑音も少ないはずなのだが、それでも、時たまドアをけたたましく叩く音がして、何事かとドアを開けるやいなや、どこで聞きつけたのか、この猫をもらってくれだの、日本の小銭を分けてほしいだの、全く構っていたら切りがない。


そういう訳で、私は日頃、極力隙を見せないことをモットーに暮らしている。
アミーゴの国に住んでいるので、フレンドリーさは多少なりとも必要ではあるが、どんな時でも脇はしっかりと固めておく。

そして、「勧誘話など、決してこの人には、持ちかけられないオーラ」を、自分なりに出しているつもりなのである。


そういう暮らしぶりの中、今日の不意打ちは、かなりポイントが高かった。


たまに、ホテルに宿泊するお客さんのコメントに、”皆さん、本当に親切で、笑顔も素敵だし、メキシコが大好きになりました。”

というのがあって、それを読むたび、”そりゃ〜、お客さんで来るんだもの、いい思いをするに決まってるよ。”と、皮肉屋の私は思うのだが、たった一杯のマルガリータで、すっかり有頂天になって、チップの一つでもあげたくなるあたり、結局自分も、単純な部類の人間なのである。


立場違えばとはいうけれど、こうして良いことが一つあっただけで、その心象がコロリと変わってしまう人の感性なんて、案外いい加減なものなのかも知れない。





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